

斉藤 真理 Mari Saito (SONY), 山田 誠二 Seiji Yamada (NII/SOKENDAI)
本論文では,ユーザーエンゲージメントがユーザーがオーディオガイドエージェントの環境適応能力に対する信頼にどのように影響するかを説明しています.オーディオガイドエージェントは,ユーザーの行動を妨げずに機能するため,今後さらに広く利用されることが期待されています.エージェントが環境に適応し,ユーザーと協働して機能するため,エージェントに対する信頼は重要です.したがって,適応そのものが信頼に影響を与えるか,ユーザーエンゲージメントの手段として意図的なユーザー操作が信頼に影響を与えるかを調査しました.2つの独立変数(環境ノイズへの適応度とユーザー操作の有無)を要因とする参加型実験を実施し,エージェントの印象に関する主観的評価を従属変数としました.適応性の要因では,ノイズキャンセリング性能が低いエージェントと高いエージェントを提供しました.ユーザーエンゲージメントの要因では,環境ノイズのボリューム調整機能を提供するか否かを設定しました.環境音が制御された実験室環境において,エージェントの環境適応度が低い場合のみ,ユーザーがエージェントをより知能的で人間らしいと認識することが確認されました.しかし,エージェントの適応度は信頼を増加させ,ユーザーエンゲージメントもエージェントの適応度に関わらず信頼を増加させました.一方,現実の環境では,適応は信頼を増加させる傾向にありました.しかし,ユーザーエンゲージメントは信頼に影響を与えませんでした.これは,現実の環境におけるユーザーの認知負荷の影響によるもので,参加者が意図した通りに操作できない状況下でも,操作可能な条件下でさえ,その影響が妨げられた可能性が考えられます.ユーザーとエージェントが協働するシステムでは,ユーザーが適切に操作できる場合,ユーザーエンゲージメントを意図的に増加させることで,エージェントへの信頼が向上する可能性が示唆されています.